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わたしの枕の横で、肘をついて頭を支えるようにして横になった彼が
「真澄が入社してすぐの頃、俺たち、なぜか急に噂された時があったよな・・・」
頭を支える手とは反対の手を伸ばして、わたしの髪を撫でる彼。
その眼は昔を思い出すかのよう。
忘れる事は出来ない。
ひと言、わたしが格好いいと言ったばかりに、その噂が社内を充満し、彼に迷惑がられた。
無言で彼を見るわたしを見たあと、続けて話しだした。
「あの時、社内に"真澄ちゃん"が二人いた事を覚えているか?」
問いかけられて、彼に向けていた視線を天井に向け思い出そうと目をつぶると
「たしか・・・・・受付の女性が・・・・・」
接点もなかったがだいぶ先輩の女性が、漢字も同じ名前だった気がする。
「そう。俺らよりも先輩の受付に立っていた女性が"及川真澄"さんと言うお名前だったんだ。社内に同じ名前の人が二人いた事から、俺らは先輩の方をちゃん付で、お前の事を名字や"アラーキー"って呼んだりして区別をしていた」
話の途中から、彼が言いたいことがわかって来た。
「お前がおそらく聞いたのは、俺が≪真澄ちゃんに言い寄られて迷惑をしている≫って言う言葉だったんじゃないか?」
再び問いかけられた言葉には、確信があるのか微笑んでいる彼に
「はい。"真澄ちゃん"って言ってました」
すなおに聞いた事を告げると
「もう、わかってくれるか?」
その後は続かないようで、わたしに判断を任せる。
「わたしは、勘違いをしていたって事ですね?」
それが本当の事なのかどうなのかは、自分ではわからない。
でも、今になってそれを訂正してくると言うことは、どうしても間違えたままで済ませたくないと思ってくれたからだと理解した。
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