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「大学生?」
人々でごった返した階段をゆっくり歩きな
がら私は思い切って尋ねた。彼も歩きながら、
うん、と答える。
「何学部?」
「コミュニケーション。うちの大学には法学
部とか医学部とか工学部なんてつまんなそう
な学科が無いんだ。」そう言ってまた微笑ん
だ。目尻にほんの少し皺が浮かび、大人びて
素敵だ。けれど、それっきり会話は途絶えた。
私は彼が友人とつるんで立ち去る姿を名残惜
しく見送り、大きくため息ついた。
彼と再会したのはそれからわずか一週間後、
なんと近所のコンビニでアイスクリームを買
っているときに、突然店に入ってきたのだ。
心臓がぱくんと大きな音をたてた。白いTシ
ャツにGパン。昼間見る彼の顔は、さらにカ
ッコよく見える。私が会釈すると、
「君ってこの辺に住んでたりする?」
そう言って私を上から下まで見た。私はピン
クのTシャツにサロペット。致命的にガキ丸
出しの服装を絶望的に後悔した。
彼はうちから徒歩で歩ける範囲の場所に住
んでいた。
「今まで会ったことがないのが不思議なくら
い。」
と言うと、彼はなんと、
「こうやって偶然会えたのは何かの縁かもし
れないね。」
そう答えて、あの目じりが下がる微笑みを見
せた。奇跡が起こった。私は気絶してしまう
んじゃないかと思えるほど舞い上がった。
彼と数分立ち話をして、アイスクリームが
半分溶けてしまったのは、本当に身体中の血
液が沸騰していたからなのかもしれない。
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