テキーラ・サンライズをもう一杯

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テキーラ・サンライズをもう一杯

 マジソンアベニューから延びる、路地を入 ってすぐのところに控えめな赤いネオンライ トで描かれた「BAR」という小さな文字が 見えた。コンクリートの階段を降りて、黒い 扉を少しだけ開けて店内を覗き、女ひとりで も大丈夫そうなことを確かめた。  半地下になった店内は広くも狭くもなく、 右側に長いカウンター、左側にはカラフルな ソファーや椅子、低いガラスのテーブルが配 されていて、モノトーンの服をまとったニュ ーヨーカーたちでそこそこ賑わっていた。 壁際の席に案内されて、一人がけの赤いア ームチェアに身体を沈めた。道路側の細長い ハメ殺しの窓から、陽が暮れかけたブルーグ レイの路面が見える。ハイヒールやスニーカ ー、様々な色や形の靴が通り過ぎて行くのを 眺めていると、ウエイターがやってきたので、 私はコスモポリタンをオーダーした。 ウエイターが去った後、人々の話し声やグ ラスの触れる音に混ざって、聞き覚えのある メロディーが流れていることに気づき、耳を 澄ませた。イーグルズの「テキーラ・サンラ イズ」だった。ニューヨークで西海岸サウン ドか、と思いながらも、サビのフレーズを自 分だけに聞こえる声で小さく口ずさんだ。 テキーラサンライズをもう一杯 空をゆっくり見渡して、サヨナラを言った    私は立ち上がり、先ほどのウエイターを追 いかけ、「ごめんなさい、先ほどのオーダー、 テキーラ・サンライズに変えて頂けるかしら。」 そう告げた。ウエイターはカウンターの後ろ にいる、白いシャツに赤いベストを重ねたバ ーテンダーに、小さな紙を渡し、バーテンダ ーはその紙を見て、肩をすくめた。すでに 「クラシックロック」というカテゴリーに殿 堂入りしたイーグルスの曲を聴いたからとい って、ニューヨークの、それもマジソン・ア ベニューにほど近いバーで、こんな流行遅れ のカクテルをオーダーする人はあまりいない のだろう。それでも彼は、後ろの棚からずん ぐりとしたパルトンのボトルと冷蔵庫からオ レンジをひとつ取り出し、パルトンと絞りた てのフレッシュ・オレンジジュースを軽くス テアし、円錐形のテキーラグラスに注ぎ、グ ラスの端から、朝焼け色のグレナデン・シロ ップを静かに注いだ。グレナデンシロップが グラスの底に真っ赤な太陽を作り出す。
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