蜘蛛

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「蜘蛛」 この病院にはよく蜘蛛が出る。カーテンを這っていたり、公衆電話の横のガラスの壁を上っていたり。 前の精神科病院もそうだった。なにか、陰湿な場所には蜘蛛が出るのか。  私は蜘蛛を発見するたび殺していった。親指と人差し指で捻り潰すのだ。それは快感だった。 今まで四回入院した。その間、私は蜘蛛は五十匹は殺した。「蜘蛛を殺すと祟られる」そんな言葉があったけれど、関係なかった。蜘蛛は私にとって快楽の道具でしかなかった。それは入院生活の中の自慰行為だった。  ある晩、喫煙所でまた蜘蛛を見つけた。小さかったが色は赤黒かった。それでも私は躊躇いなく、いつもの様にそれを摘まんだ。その瞬間刺された。激痛が走った。人差し指の腹は赤黒く腫れた。私は特段気にせず、そのまま寝た。その赤黒い蜘蛛を殺せたのだから満足だった。  朝起きて、顔を洗おうと洗面所に来た。鏡に映る私の手は六本になっていた。
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