第二楽章 ・ 夢と野望と駆け引きと

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「響希って呼んでくれよ、律。俺のファンなんだって? 沢渡さんから聞いたよ」 「先生ったら……はい、そうなんです……ずっと、ずっと憧れていました」 「そうか、嬉しいよ――」  僕の課題曲変更に、観客も審査員も騒然としていたけれど、響希だけは違った。突飛な行動をとった僕を、彼は面白いと気に入ってくれたんだ。狙ったとおりの筋書きだ。  響希が僕の腰に腕をまわして、バックヤードへとエスコートする。何が待ってるかなんて、それくらい僕だって想像はつく。僕はゲイでは無いけど、それで彼の御眼鏡に適うのなら、望むところだ。  珍プレーのおかげで最優秀賞は逃したけど、優秀賞は果たせた。ポーランドへの切符も、響希ごと手に入れてやる、絶対に――  ☆ ☆ ☆  時は廻って僕は音楽院を卒業した。沢渡先生と響希の根回しもあって、僕は夢の地ポーランドに降り立ち、栄誉あるコンクールにも参加できたんだ。え、順位はどうだったかって? はは、それは想像にお任せするよ。  コンクールの後、僕は響希から仕事のオファーを持ちかけられた。勿論のこと僕は迷いなく承諾したってわけ。それから八年、僕は響希の許で彼に尽くして働いてきたつもりだ。  だったんだけどな――……。
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