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舌の上に果実の欠片が転がり、果汁が一気に広がる。甘い。甘く、爽やかで、香り高い。これならばきっと、今年のイァサムも高く売れるに違いない。
「スェマナ」
すぐ近くまで来たヤヅァムが、いきなりスェマナの腕を強く引っ張った。その勢いで食べかけのイァサムの実がべチャリ、と赤茶けた土に落ちてしまった。
「あーあ。ヤヅァムったら。せっかくのイァサム、落としちゃったじゃない」
スェマナはヤヅァムを軽く睨み付けて、他の実を探し始めた。そんなスェマナをヤヅァムもきつく睨みつけた。そしてまた強く腕を引く。
「……っ、それどころじゃない!隠れるぞ、どこかに」
ヤヅァムったら、何をやらかしたのよ。おじさんのお説教に、あたしを巻き込まないで。
そう、言おうとして、このとき初めてスェマナはヤヅァムの顔を近くでまともに見た。
「……なに、それ」
ヤヅァムの汚れは、泥と、煤と、血だ。
途端、スェマナの全身が粟立つ。あわててしゃがみ込んだ。ちらりと村の方を見たが、この畑からでは木々が邪魔をして、炊事の煙ひとつ、窺うことは出来ない。
「なに、何が起きたの」
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