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今度結婚するのだ、と村の娘のひとりが言っていたことをスェマナも思い出す。
そう、あれは確か、ダブトレおじさんの娘だ。
もしもヤヅァムがシュントを捕まえて、ふかふかのしっぽや毛皮を戸口の飾りにとプレゼントしたら、さぞやダブトレおじさんも喜んだろう。
「シュントは見つからなくて、俺は村に帰った」
ヤヅァムが不安そうに、スェマナを見上げた。
先程のミシィハのように、椅子の上で体を縮めて、ずいぶん頼りない顔つきをしている。
「ヤヅァム、続けて。アタシも何があったのか、知りたい」
スェマナはきゅ、と握っていた手に力を込める。
汗をかいているのは、ヤヅァムの手のひらか、スェマナの手のひらか。
……繋いでいない方の、自分の手のひらに汗はなかったけれど。
「お祭り前の、料理を準備するときみたいな匂いがした」
……お祭り。
沢山の食材が用意される。でもあの日、すぐにお祭りがある予定なんて、なかった。結婚があるといっても、これから家を建てようとするくらいだ。料理の支度をする時期ではない。
「静かで、変だと思ったんだ。小さい子供達の声もしないし、鳥もいないし」
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