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呆れた。
時間が止まる、というのはこういうときに使うべき言葉だろう。ガシャン、とカップを落としたのはハンキレンダ。熱いお茶を膝にぶちまけ、「あつっ!!」と悲鳴を上げたのがオリギトだ。
スェマナはピシリ、と固まった。何を言い出すのだろう、この男は。
「……はい?」
カップを素早くテーブルに置いて、乾いた布を数枚手に取り、オリギトの膝を拭く。更に数枚をハンキレンダに軽く投げた。ハンキレンダが割れたカップと、こぼれたお茶を自分で片付けていく。
キュイールに向かって何を言い出すのか、と文句を言いたかったが、あまりの衝撃でスェマナは上手く言葉が出てこない。
「こんな時に求婚か」
やはり、ハンキレンダは立ち直るのが早い。
はっきりと抗議の色を持った言葉は、しかしキュイールにとって全く効果がなかった。
「求婚?……そうだなぁ、スェマナが婚姻による立場の強化を望むんなら、誰とでも、好きな者と結婚できるように取り計らおっか。
スェマナ、君を、正式に私の直属の部下に迎えたい」
その場にいる全員が求婚かと勘違いしてしまったが、どうもキュイールは違う事を言ったつもりらしかった。
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