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「それはつまり、オリギトと?」
まさか自分の名前が出るとは思わなかったのだろう。オリギトの背筋がぴっと伸びた。
スェマナは首を横に振る。オリギトはよい人かもしれない。
でもここに、この領主館に、スェマナが望む人はいない。
それに、もしも村に帰ることができたのならば、やることはきっとたくさんあるだろう。
「結婚は誰ともしたくないです」
「……そうか」
夕食の準備ができている、と使用人の一人が声をかけに来て、その話は終わりになった。
オリギトが村に来るのなら、良い村になるだろう、とスェマナは心が温かくなった。
オリギトが何かを言おうとして、飲み込むような顔をしていたのが少しだけ気になったが、オリギトはよくそんな顔をしている。
聞いても何でもない、と答えられるばかりなのだ。
その日の夕飯にデザートがついて、それがスェマナの好きなお菓子だったのを知った頃にはもう、そんな事も忘れてしまった。
翌日になれば、ヤヅァムも落ち着いていて、いつも通りに話ができた。
領主館にあった資料と、二人の記憶、そしてミシィハの話から、村にあったはずの祠が壊されたのではないか、とハンキレンダが推測した。
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