イァサムの実がなる村

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水汲みはほんとうに大変だった。 イァサムの畑は、村人にとって大事なものだった。あの低地以外だと、ほかに住めそうな場所は高台しかない。そう考えると、仕方ない事だったのかと思ってしまう。 「君たちがよく言うイァサム、というものを知らないな……領主館にある書類にもたまに出てくるが、それは一体何なんだ?」 キュイールが首を傾げる。 宿屋で働いていた者も、イァサムの実については皆知っていたから、ありふれた果実かと思っていた。 しかし、キュイールとハンキレンダの口ぶりだと、どうやらイァサムの実のほとんどは、村の中だけで消費されていたらしい。 ほんのわずかがこの街まで運ばれ、売られていたらしい。 他の地域には運び出されないものだったようだ。 「日持ち、しないもんね」 スェマナはイァサムの果実の、甘い香りを思いかべた。 今ならば、ヤヅァムの移動魔法がある。あの美味しい実を各地に運べるかもしれない。 それでも、他の地域できっとイァサムの木が根付くことはないだろう、という確信があった。 あれはなぜか、あの低地でしか育たない木なのだ。
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