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「こんなところから落ちたら大変だよ。俺の弟も――」
「弟?」
透子が尋ねかけると、
「いや何でもない。気をつけて。貧血?」
男は首を振って、逆に心配そうに聞いてくれる。
透子ははっと、階段の上を見上げてみた。
そこには、忙しなく行き交う人々が、階段を行き来しているだけだ。
怪しい人影など、どこにも見えない。
「キミ?」
透子が返事をしないのを訝しく思ったのか、男がちょっと首をかしげてくる。
今度は逆に透子が首を振って、
「……いいえ。大丈夫です。ありがとうございました」
礼を言って、頭を下げた。
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