1 幼なじみ

1/8
111人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ

1 幼なじみ

「透子、こっち!」 目立つように右腕を高くあげて振っている幼なじみを見つけて、千影透子はホッと息をついた。 「鈴音」 名前を呼びながら駆け寄っていく。 「会えてよかった」 待ち合わせ場所はちゃんと決めてあったけれど、ふたりが育った北海道の田舎街では、お祭りでもなければ、こんなたくさんの人で溢れることはない。 何年かこちらで暮らしていると、こういう人の多さにも慣れてくるのかもしれないが、今の透子には、ちょっと信じられない。 北海道で高校まで一緒に過ごした幼なじみ、雨山鈴音とは、大学進学を機に疎遠になっていた。 就職した先も、鈴音はひとり本土に渡ってしまい、気楽に会うということも叶わなかった。 だけど今日、透子の上京を機に、ようやく再会だ。 「鈴音、前髪切ったんだね」 「そういう透子は髪がのびたね」 何年も会っていないはずなのに、まるで昨日別れたみたいな挨拶が出来る。 透子と鈴音の間の空気は何も変わらない。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!