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1 幼なじみ
「透子、こっち!」
目立つように右腕を高くあげて振っている幼なじみを見つけて、千影透子はホッと息をついた。
「鈴音」
名前を呼びながら駆け寄っていく。
「会えてよかった」
待ち合わせ場所はちゃんと決めてあったけれど、ふたりが育った北海道の田舎街では、お祭りでもなければ、こんなたくさんの人で溢れることはない。
何年かこちらで暮らしていると、こういう人の多さにも慣れてくるのかもしれないが、今の透子には、ちょっと信じられない。
北海道で高校まで一緒に過ごした幼なじみ、雨山鈴音とは、大学進学を機に疎遠になっていた。
就職した先も、鈴音はひとり本土に渡ってしまい、気楽に会うということも叶わなかった。
だけど今日、透子の上京を機に、ようやく再会だ。
「鈴音、前髪切ったんだね」
「そういう透子は髪がのびたね」
何年も会っていないはずなのに、まるで昨日別れたみたいな挨拶が出来る。
透子と鈴音の間の空気は何も変わらない。
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