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第2章 100万円の初夜
「……シュウ?」
顔を見た時、思わず声が漏れた。
エンドに初めて会ったのは、繁華街の外れにあるとあるクラブだった。
社会勉強だといって取引先のスズキに連れて来られたそこは、小さいけれど内装だけはやたら豪華な秘密めいた店だった。
やたら顔の整った男たちがそろったそこは、一見するとホストクラブのようだった。
だがその場所に流れる雰囲気は、それ以上の物を含んでいるようで――
しかしそんな事はどうでも良かった。
俺達を出迎えた、ナンバーワンを名乗る背の高い男。
そいつに、いや、その顔に、俺は目を奪われていた。
似ていた。
そいつの顔は、秀一に。
日本人離れした掘りの深い、だけど上品さも兼ね備えた涼しげな眼元、鼻筋。
どこか大人じみた包容力を感じさせる厚い唇。
数日前に別れたばかりの恋人の顔が、台詞が脳裏に浮かんだ。
(……肇は、もっと俺以外の人間とも付き合った方がいい)
(俺がいると、依存してしまうだろ? しばらく距離を置こう)
……何がいけなかったんだろう。
何も、問題はなかった。
問題がないなら、どうすればいい?
俺は、どうしたら良かったんだ……
「どうしたんだい?」
思考が心の澱みに沈みそうになる直前に、スズキの声が聞こえた。
「あ、いえ、何でもありません」
はっと顔を上げ、即答する。
しかし、その言葉が向けられたのは俺ではなかった。
「あ……すみません、何でもありません」
ほぼ同時にしおらしく答えたのは、ホストの男。
俺がシュウと呼んでしまったその男は、俺が思わず呟いたその単語に驚いたように立ち尽くしていた。
でも、どうして……?
その様子に僅かにひっかかりながら、男の胸の、薔薇飾りで縁取られたネームプレートを見る。
「エンド……」
「はい。お呼びですか?」
そいつの名前……店での呼び名は、エンドだった。
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