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整った、それでいて色気のようなものがにじみ出る顔。
その唇を、いつものように皮肉気に歪めながら。
「なんで――」
「お前から貰った金は、使う気になれなくってな」
エンドは頬に当てた札束を離す。
ぽろりと、まるで紙屑か何かのように落ちる100万。
「いつか、こうしたいと思ってた。ちょうど30回分――3000万円。今が良い機会だ。……それに、こうすればお前を……いや」
「ぐ……」
エンドは冷たい声で何か言いかけたが口を閉ざす。
続く言葉は俺の喉から絞り出された音だけだった。
出そうと思ったつもりはないのに。
ぐらりと、世界が揺れた。
ここは俺のオフィス。
俺一人しかいない会社の、俺だけの城。
勝手知った場所の筈。
なのに、目の前にこいつが、エンドがいるだけで驚くほど不安定な場所になる。
「どうする、肇(はじめ)」
戸惑う俺を揶揄するように、名前を呼ばれた。
妙な違和感。
ああ、そういえばエンドはいつも、俺を『瑠津(るつ)さま』と呼んでいた。
もう、客じゃないんだ。呼捨てにも、される。
――だけど、どういうつもりなんだろう。
こいつは、一体何を考えているんだ?
あのことを、知ってるんだろうか……いや、知らない筈がない。
さっきの今で、このタイミングで3000万円なんて。
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