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扉から、音がした。
次いで、誰かが立ち去る足音。
軽快なその音は、どこかあいつを思い出させた。
そして次の瞬間、俺はスズキの手を振り払っていた。
「おや……」
「い、今すぐっていう道理はないだろ? 銀行にだって行かなきゃならないし」
動揺が、俺の息を乱れさせる。
その呼吸をどう取ったのか、スズキは肩を震わせて笑う。
「は。は、は…… そうだねえ。少し性急だったねえ」
そしてゆっくりと俺から離れる。
自分が解放してやったのだと見せつけるように。
「それでも、なるべく早い方がいいからね。……来週の月、いや火曜日でどうだろう?」
「……分かった」
実の所、全く期間は足りなかった。
まともに資金を確保するためには2、3週間は欲しい。
それでも、今、この場から逃れたい。
それだけの為に、俺はその提案を受け入れてしまった。
――それから、1時間と経たないうちに。
3000万円の方から俺の所にやって来るとは思いもしなかった。
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