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改めて、目の前のエンドを見る。
隙のないスーツを着こんで、無表情を張り付けた営業モード。
こんな時、“遠藤”の影は微塵もない。
どこまで、知ってるんだろう。
間違いない。
あの時の足音は、こいつだ。
だけど何故、こいつが3000万円を用意してるんだ。
もしかして気づいているんだろうか。
この状況の原因が、この間のアレのせいだということに――
「どうする?」
エンドの声で我に返った。
そうだ。
決めなきゃいけない。
とはいえ、既に俺に他の選択肢はなかった。
ただ目の前のルートに、形ばかりの承認をするだけ。
「……頼む」
それでもせめて、屈したと思われない様に。
声だけは強く出そうとしたつもりが、その弱々しさに唇を噛んだ。
エンドはそんな俺に構わず上着を脱ぐと、タイを緩めた。
掘りが深く鼻筋は整って、日本人離れした端正さと精悍さが混在しているその綺麗な顔に、口元だけが皮肉気に歪む。
初めて会った時と全く変わらない。
――どうにも、好かない表情だった。
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