第3章 3000円の飲み代金

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 遠藤は俺に視線を合わせないまま、頭を下げた。  深く深く、畳みに額がつくまで。 「あ、え……」  一体何が、と聞こうとして身体の一部分に残る痛みで気が付いた。  ああ、昨晩の。  酔って動けなくなった俺を家に連れ込んで、更にはシャワーとかを使って散々…… 「お、お前……ふざけんな」  思い出した途端、身体が熱くなってきた。  それを誤魔化すように、口調が鋭くなる。  遠藤はそれを受けて、大きな身体を縮こませる。 「ああ、本当に、悪かった。もう、何も弁解できないし、するつもりもない」  心からすまなさそうに謝るその様子は、いつもの遠藤だった。  昨日の、謝らないぞと言って俺を襲った時の様子は微塵もない。  それを見ていると、次第に俺も落ち着いてきた、が、同時に沢山の事も思い出されてくる。  この部屋に連れて来られたこと。  潰れてからの、会話。 「バイトも辞める。もう、お前とは会わない。それに――」 「あ……」  遠藤の謝罪を聞いているうちに、ふいにある台詞が頭をよぎった。 「いや……いや!」  そして同時に理不尽な怒りが湧きあがる。 「お前、何値切ってんだよ!」 「……え?」 「3000円って、桁が違うだろ!」 「え、何の話を……」  困惑する遠藤を前に、俺は自分の荷物を探る。  あった。  手に入れてからは肌身離さず持ち歩いている、あるものを取り出した。  それを、遠藤に投げつける。 「俺は、ちゃんと貯めたのに」 「え……!?」  札束。  1万円札が、100枚。 「何だ、何で、これ……」 「……これで、お前と、映画に行きたかったんだ」
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