第3章 3000円の飲み代金

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「……」 「……」  絶句する遠藤を前に、俺も何も言えなかった。  ああ。  思わず勢いで札束を投げつけちまった。  100万で、って、まるでホストを買うみたいに。  あいつは、遠藤で、エンドじゃないのに。  どんなに金を出したって、それであの笑顔が俺に買えるわけじゃないのに。 「――俺も」  後悔が渦巻き始めた頃、遠藤が口を開いた。 「俺も、貯めようと思ったんだ」  苦しげに、懺悔でもするかのような重い口調で。 「でも、3000万円はさすがにすぐには無理で。そんな時、お前があいつと……都城さんと仲良さそうにしてるのを見て、どうにも我慢できなかったんだ」  ……まあ、100万と違って普通に働いて稼げるかどうかも分からない額だよな。  少し同情的な気持ちになった俺に、遠藤は更に続けた。 「まあ、以前から3000円でもなんとかなりそうな雰囲気を作る為に、たまに100円を100万とか言って伏線を張って――」 「そんな前からかよ!」  いや、いや――こいつ何気に無茶な計画立ててんな。  驚くとか嬉しいとか以前に、呆れてしまう。 「そ、それにさ、俺、100万貯めても使えなかったんだぞ。なんか、金で買ったら、やっと俺に向けて笑ってくれたお前が、また笑ってくれなくなるかもしれないと思って――」  思わず、隠していた気持ちがぽろぽろと零れる。 「俺もだ。お前、やっと俺に向かって笑ってくれるようになったろ。覚えてるか? コンビニで、真正面から俺に向かって笑って、あれ、どんなに嬉しかったか」  忘れるわけ――ない。  俺だって、間近で遠藤の笑顔が見れた瞬間だったんだから。  照れたような遠藤の顔を見て胸が弾んだが、次の瞬間、遠藤の笑顔はふいに固まる。 「けどさ。お前――都城、さんを見て、笑ってたな」 「え?」 「元恋人のあいつに、ずっとあの笑顔が向けられていたと思ったら。これからも、ずっとあいつに向かうと思ったら……いや」  遠藤は拳を握りしめる。 「お前の笑顔が他の奴に向かうくらいなら、たとえ消えてもいい。独占したいと、思ったんだ」  悪かったと再び頭を下げる遠藤を、ただ茫然と見ていた。
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