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「全て、お任せください」
あいつはそう言って俺を包み込むように抱き締めた。
その腕はあくまでも優しく甘いように感じられた。
それが、表向きだけの空虚なものだったとしても。
「う、ぅ……」
蕩けるように甘く、優しく、だけど何処か拭いきれない冷たさの残る記憶の中のエンドの舌。
それとはまるで違っていた。
舌は、咥内をゆるりと蠢く。
俺の舌を絡め、吸い、歯茎のひとつひとつをなぞり、翻弄する。
いつものキスとは、違う。
エンドを買ったときのキスは、あくまでもこれから始まる情事の前の事務作業。
それ以上もそれ以下の意味合いも持たなかった。
だけど、これは、何だ。
深く深く繋がるような、まるでこれ自体に何か意味があるかのような行為。
それを戸惑うより与えられる刺激の方が強烈で、全てを忘れてしまいそうになる。
違う。今までとは、全然。
全身に力が入らなくなった頃。やっと解放された。
「は、ぁ……」
自分の肩に手を置きなんとか立っている俺を、エンドは無言で見下ろしている。
その顔には、いつもの……皮肉気に歪んだ唇。
ああ畜生。
こんな時でも、こいつは笑わない。
その事実の方が、こいつの仕打ちより悔しくて、唇を噛む。
血が滲むほど、強く。
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