第3章 3000円の飲み代金

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 どうしたら、いいんだろう。  どういう感情を持てばいいのか、分からなかった。  独占したいと知って、嬉しかった。  笑顔を見たいと言われて、嬉しかった。  だけど、3000円。  だけど、無理矢理な凌辱。  つい先程までの行為は、重苦しく引っ掛かっていて。 「――俺、お前と映画に行きたかったんだ」 「……ああ」 「シュウとは、何もない。シュウとじゃない、お前と」 「――俺もっ」  遠藤はがばと顔を上げる。 「俺も、3000万円貯める! そしたら、お前と――」 「無理だろ」 「……」  冷たく言い捨てる。  3000万円なんて、決心してすぐ貯まる額じゃない。  唇を噛む遠藤の顔を、まじまじと見つめる。  後悔と、苦渋と、その他悲痛な感情が全て混じったような顔。  ――ああ。  俺、こいつのこんな顔は見たくない。  俺が見たいのは…… いつも脳裏に浮かぶ、こいつの表情が思い浮かぶ。  同時に、どうすればそうなるのか、はっきりと気が付いた。 「あ、後払いで、構わない――」  遠藤の目が、驚きで見開く。  その表情も悪くないなと、ふと思う。  ――そして、俺の方から唇を重ねた。
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