第3章 3000円の飲み代金

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 見ると、バイト先の店の番号。 「あ……えええ!?」  ついでに点灯する時間表示を見て、声を上げた。  いつの間にか、午後4時過ぎ。  もうバイトが始まってる時間じゃないか!  慌てて携帯を取ると、開口一番謝罪に入った。 「すいません! ちょっと具合が悪くて……」 『今、大丈夫?』 「シュウ!」  電話口から聞こえる意外な相手の声に、思わず大きな声が出た。  ある意味今一番聞きたくない声。  その俺の声に、目の前の遠藤の表情が強張る。  どうしようと困惑していると、電話口のシュウは意外な言葉を告げてきた。 『そこに、遠藤君もいる?』  遠藤?  たしかにいるけど、なんでシュウが……  驚いて口籠る俺に、更にシュウは問いかける。 『どうなの?』 「あ、うん、いるけど、なんで分かるの……?」 『飲み会の誘いを二人してドタキャンした挙句、二人揃って遅刻してたら、そりゃもうねえ……』 「す、すいません……」  どこか笑みを含んだ呆れ声に、思わず居住まいを正して謝罪する。 『まあ、今の今まで遠藤君が一緒で良かったよ』  久しぶりに間近で聞くシュウの声は相変わらず優しく、だけどどこか寂しげな気もした。 『これで――肇が一人きりで遅刻するような状況だったら、遠藤君には辞めて貰ってたかもしれない』 「は、はは……」  遠藤、やばかったな……  優しい声のまま、シュウは本気なのか冗談なのか洒落にならない事を言う。 『じゃあ、遠藤君に代ってくれるかな?』 「は、はい!」  慌てて携帯を遠藤に差し出す。 「あ、都城さん、どうも――はい、はい!」  怪訝な顔で携帯を受け取った遠藤もまた、耳にした瞬間慌てて正座して謝罪し始める。 「はい、どうもすいません……あ、いえそこまでは……いや確かにそうですが……はい、はい分かりました!」  数回のやり取りの後、切った携帯を俺に返して立ち上がる。 「じゃあ……俺、行ってくる」 「え、どこへ?」 「バイト。あ、お前は来なくていいってさ」 「どういうこと!?」  急いで支度を始める遠藤の肩を掴む。 「いや、なんか都城さんが、お前は休んでおけって」 「いらないよそんな余計な気遣い!」  変に気を回してくれたシュウを恨みながら、慌てて俺も遠藤の後に続いた。
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