第4章 300円のふたりきりの娯楽

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「俺、お前を名前で呼びたい」 「……嫌だ」 「何でだよ!」  思い切って切り出した提案を即行で拒否され、むうと頬を膨らます。 「だって、シュウって、あいつを思い出すだろ? あいつと同じ呼び名で呼ばれるのは、絶対に嫌だ」 「嫌って……仕方ないだろ? そういう名前なんだから」 「お前さ、気になる奴との初めての行為の時に、泣きながら違う男の名前呼ばれた俺のトラウマが分かるか?」  遠藤はさも嫌そうに唇を尖らせる。  あれから何度も一人の時に思い出しては萎えるんだぜ……そう頭を振る。  何度も思い出して何だってんだ。  その言葉の奥に含まれた意図に、思わず顔が熱くなる。  だけど俺だって黙っちゃいない。 「……お前こそ、気になってる相手に事実無根の怒りで襲われたり、そもそも3000万円で好きにされた俺の心の痛みが分かるのかよ」 「……すいません」  しゅん、と縮こまった遠藤が頭を下げる。 「大体、何でそう思ってる相手に大金出して好き勝手したんだよ」  そんな俺の以前からの疑問に、遠藤はさらりと答える。 「酷い事は、してないだろ? 肝心な所は優しくしかしてない。……再現してやろうか?」 「い……いらないよ!」  遠藤の微妙な手つきに思わずあの時のことを思い出し大きく頭を振る。
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