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●遠藤 終の場合
あれは、肇から最後の連絡が入ってから、半年後のことだった。
「あ……あ!」
その笑顔に、俺はただただ絶句する。
間違いない。
あいつは、肇だった。
あいつが突然俺を買うのを止めると宣言し、大学を止め。
だけど最後の機会にと、あいつを3000万円で買ってから、半年後。
およそ半年間、ずっと俺を買っていたあいつが消えて――ちょうど時を同じくして、実家が畑を手放し俺が金を稼ぐ理由も無くなって。
ホストを辞めた。
ひたすら気を使うだけの毎日で、早く楽になりたいと思っていたのに、辞めてしまうとその喪失感は妙に大きくて。
それに加えて万が一にでもあいつが会いにくる可能性も完全になくなったなと思ったら更にその穴は拡大して。
寄る辺なく町をふらついていた。
そんな時、道路の向こうにあいつを見つけた時の衝撃といったら!
「――ほんとにありがとう。助かったよ、シュウ」
「いや。頼ってくれて嬉しいよ。また何かあったら言ってくれ」
あいつの隣には一人の男がいた。
隙なくスーツを着て、背筋を伸ばし歩く頼りがいのありそうな、優男。
いやそれよりも……笑顔。
俺といる時にはほとんど仏頂面だったあいつが、その男には無邪気な笑顔を向けている。
おいちょっと待て。
なんであいつがあんな笑顔をしてるんだ。
なんであの男にそんな笑顔を向けてるんだ。
俺は……ものすごく苦労して、やっと数回引き出すことができただけなのに。
思わず、後をつける。
二人は居酒屋に入っていった。
こんな、昼日中から?
いや、この時間に入る理由といえば……可能性はひとつ。
俺は居酒屋入口に貼られたチラシを見た。
そこに書かれた内容を暗記する。
しばらくして、二人がそこから出てくるのを少し離れた所で確認した。
そして俺は、携帯を取り出して電話をかけた。
つい先程覚えたばかりの電話番号に。
「――あの、すいません」
電話口に出た相手に、畏まった声を出す。
「アルバイト募集のチラシを見たのですが……」
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