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「は、ぁ……っ!」
息をつく間もなかった。
次の瞬間、唇に柔らかいものを感じた。
熱い、柔らかい、指とは圧倒的に違う。
唇が触れ合い、再び舌が入ってきた。
指とは違うその柔らかさ、しなやかさ、そして熱さに一瞬我を忘れる。
「ん……」
そう思った瞬間、唇は離された。
焦点の定まらない瞳でエンドを見れば、そこにはもう冷笑の影すらなくて。
「……駄目だな」
「な、に……」
否定の言葉についむきになってエンドを睨む。
しかしエンドは微塵も動じない。
「立場、分かってるのか?」
「わ、分かってる」
答えてから、慌てて体勢を立て直し、思い出そうとする。
俺の立場……エンドがいつも俺にしてくれたこと。
エンドに身を寄せ胸のボタンを外すと、舌を出す。
開いた胸に、そっと舌を這わせる。
が、あっとゆう間に頭を押さえて、離された。
「な……にすんだ!」
「下っ手くそ」
「え、わ」
俺の頭を掴んだ手に、力が入る。
バランスを崩した俺が倒れ込んだのは、来客用のソファー。
そこに覆いかぶさるように、エンドの影。
「俺の好きにさせろ」
上からかかる、尊大な言葉。
――馬鹿にしやがって。
口に出しそうな文句を呑み込む。
確かに、今の立場の俺には何も言うことができないから。
それでも。
元はといえば、こいつのせいでもあるのに。
こいつが、あの時俺を見なかったら。
こいつと、あの時再会しなかったら。
こいつの、あの顔さえ見なければ……
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