うたかた

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焦る気持ちをひたすら押さえ 浜に向かってひた走る 草履は忘れた 今更いらん 今ゆくぞ 今逝くぞ そなたの元に ひらひらと あの夜の浜に さくり、さくさく まろびつつ さくさく、さくり 転びつつ 懐かしい浜に着いたなら 打ち捨てられた小舟が一艘 舟に手をかけはたりと気づく 黒の法衣がどす黒い 首の傷から止めどなく 赤い花びら撒き散らし よくみりゃ浜にも転々と ふふふと笑いも出るものよ 血染めの法衣を脱ぎ捨てて、白衣になったらば やっぱり血塗れ、脱いでやれ 全て打ち捨て 産まれたままの素っ裸 舟に乗り込みよくみれば、 おんぼろ舟に大穴二つ まあ 構うまい 沖までだ さあ、まだ意識のある内に 最後の力振り絞り 海に向かって頼み事 両手を広げ なるべく遠くに届かせて 「我を運べ、この舟とともに 我を運べ、波にのせ 我を運べ、海の上 最後の願いぞ、皆の衆 宜しく頼む、海の衆」 きりきり迫る波の音 よくみりゃ色とりどりの魚達 月の光がきらきらと やつらの鱗が鏡のように きらきら、きらきら 美しい
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