うたかた

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魚の波に運ばれて あっという間に沖まで着いて おんぼろ舟は沈みだす まだだ、まだまだ 思ったとたんに我が髮が いきなりばさりと伸びてきて 大穴二つ塞ぎだす やはりヒトにはなれなんだ ちょっぴりさみしい思いもあるが 「いいや言うまい、もうやめてやる ヒトでいることやめてやる いっそ人魚もやめてやる 今宵限りで全てを捨てて ただのアミメで死んでいく」 両手で櫛を握りしめ 今度は一気に思いきり 右から左へ掻ききった ヒトの子達よ、さようなら 我を頼りにしてくれた 我の寂しさ救ってくれた 悟り開かん愚か者を よくぞ大事にしてくれた 今一度さようなら 我は夫の元へ逝く 血飛沫舞うよ 海の上 花びら散るよ 浪の上 すぶすぶ ズブズブ 小舟が沈む 沈むがよいよ 我の体も持っていけ すぶすぶ ズブズブ 海の中 この懐かしい肌触り 母に抱かれた心地がするよ あぁしまった、形見の櫛が いつのまにやら手を離れ 何処にいったか分からない このまま死ぬのか一人きり まあそれもよいかなとその時に 意識が消えるその時に しっかと取られる我が腕(かいな) 「アミメ」
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