うたかた

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うっすら開けたその目には 懐かしくもそなたの姿 そうか 櫛に想いが残っていたか それとも我の執着が、 そなたを櫛に留め置いたか 「ぬしよ」 しっかり抱き合い 口を吸い 「待たせた」 「何の。瞬きの間」 「もう離れん」 「転生できぬぞ」 「構わん、そなたと一緒なら。波の上で月の下で遊んでいる」 「大した比久尼だ」 「ただのアミメだ」 かかかと笑うそなたの顔は、出逢ったときのそのままで 恋い焦がれた、そのままで 「ならば行こう、一つになって」 互いの手と手をしっかと握り 体を擦り付け、口を吸い 足の先から崩れてく 指の先から崩れてく 髮もホロホロ崩れ出し 互いの体が沫(あわ)になる どんどん どんどん崩れ行き いつしか海から飛び出して ゆらり、ゆらゆら 水面に揺れて ふわり、ふわふわ 月の下 空に昇るよ 沫となり くるり、くるくる 螺旋を描いて昇り行き その内 空気に溶け込んで ゆるり、ゆるゆる 一つに混ざり 離れない ひらり、ひらひら ふる、ふわり そなたと我は 未来永劫 共にいる 完
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