囚われ

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「何を謝る、何ぞしたか?」 ぬしの話がよう見えん 今宵は月が美しい 銀に輝くその姿(なり)に、惚れるものも多かろう 惑わされるものも多かろう ぬしと出逢ったあの夜も 月の光が心惑わした 思えばそなたはそのせいで 人魚を妻にするなどと、馬鹿なことをしたのかえ? 「頭(かしら)は白く、肌は黒ずみ、目は血走ったこの姿。 息さえ、絶え絶え見苦しかろう。 それに比べて不老のお前。 今でも若く、美しい。 なあ、アミメ。 今まで黙っていたことが。 こうなることは承知の上で、そなたを捕らえたに お前と会ったは、あの日が三度目 最初は夜釣りで沖に出た 二度目はお前見たさで海に出て 最後は何としてでもお前を捕らえるために、 網を持って舟出した どの夜もよく晴れ、 月が、お前を引き立てて 輝くばかりの美しさ お前を独り占めしたくてたまらなんだ 許せよ、俺のわがままを ヒトの世なんぞ、お前にしたら瞬く間 俺が死んだら自由になれよ 海に戻って好きに暮らせ 今まで縛って悪かった」 何を今更 我をアミメと名付けたその時から ぬしがかけた呪は、今も 生きているのが解らぬか 逃げる気になりゃいつだって 何時(なんどき)だって逃げられた 我はそなたと共にいる そなたが死んだら我も逝く こんなに愛しい男が何処にいる? 我に掛かった網よりも苦しく甘いこの呪い 我に解く気はありませぬ
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