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冷たい軋みが肌を刺す。逆立つ髪が、心を叩く畏怖への度合いを物語る。
背にした壁から外で何が起きているのかを知る。外からの衝撃が体を通り、脳に指令の如く突き動かす。
『ここから逃げろ』と。
体力は限界だったが、割れたガラスの隙間から薄汚れた手が伸びるよりも、体内に微かに残った力をひねり出す痛みに晒される方がマシだと、エブリンが持ってきた板を壊れた窓に打ちつけた。
「補修はできたのか?」
窓を打ちつけた若者の肩に、赤毛の男が手をかける。
「補修はできたのかマシュ!」
マシュと呼ばれた若者は、男の手をゆっくり除けると、疲労混じりに呟いた。
「できた。補修は、できた」
「お前今の状況分かってるのか? このままじゃ、全員死ぬんだぞ!」
「分かってるさ。分かってるよジム」
ジムは赤毛を掻きむしると、振り返った先のイスを蹴飛ばした。
「イライラしないで。不安なのは皆一緒なのよ」
マシュに新しい板を渡しながら、エブリンはジムをたしなめる。それをジムは舌打ちで返した。
深夜とは思えない喧騒が谺する外界は、呻き声の合唱が鳴り止まず、部屋の片隅ではタツヒロが未だ耳を塞いでうずくまっている。ジムにはそれも苛立ちの種だった。
「お前も手伝えよ! 震えてるのがお前の仕事か!」
「裏口の補強は済んだ。そっちはどうだ?」
ジムが怒鳴るのと同時に、長髪の男と黒人の男が部屋に歩み寄る。その後ろから、小柄な女性が何度も裏口を気にしながら付いてきた。
「こっちは大丈夫だよ。補修も補強も終わった」
マシュは金鎚を置き、脱力感に包まれる体を床に預けながら、彼らに声をかける。それに頷くと、長髪の男はジムの肩を掴み、座るように促しながら周囲を見渡した。
「裏口は俺とカーレンが直した。ここは完了したようだから、あとは2階だけだな。ジム、今はタツヒロに何かやらせるのは無理だ。ショックが大きすぎる。残った者であとはやるしかない」
膝を抱え震えるタツヒロの傍に、黒人のカーレンの影が落ちる。
「この状況じゃ皆一緒なんじゃないスかねぇ」
ジムはエブリンに当てつける顔で言う。エブリンの表情に僅かに怒りが映る。
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