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月の灯りは届かない。
窓には目張りと補強の為の板が打ちつけてある。粗く取り付けられたその隙間からは、蠢く人影があちらこちらに窺えた。
ベッドと本棚しかない粗末な部屋の中心には、床に脚を打ちつけたイスに縛り付けられた女性がいた。
ただ、彼女は人が人である当たり前の動きとは程遠くかけ離れた動作を繰り返し、言語が消失した唇からは、血液と混ざり合った涎をとめどなく流していた。
着衣は乱れ、髪は埃と汗の脂に汚れ、人間のそれではない黒褐色の肌には青い血管が浮き出ている。そして一番異なる箇所は、まばたきを忘れたかの様に見開かれた眼にあった。
灰色に濁った瞳は部屋の宙を掻き、何を捉えるわけでもなく認識するでもなく、ただただこの空間を見渡しているだけで、視力が残されているのかさえ分からない。小さく大きく吠える声も相まって、さながら彼女を獣と見間違えてしまう。
「シェーン」
扉が開き、エブリンとマシュ、フェイスが入ってきた。一番後方から部屋に入ったフェイスは、部屋に溜まった臭いとイスに拘束された女性を見て、顔をしかめた。
「シェーン」
エブリンは獣と化した女性を呼ぶ。シェーンは灰色の目をエブリンに向けた。敵意を含む威嚇の表情が、エブリンに投げかけられる。
「シェーン、分かる? エブリンよ。シェーン、私よ、エブリンよ」
マシュの手がエブリンの肩に乗せられた。振り向く彼女に、マシュは小さく首を振った。
「ここまで進んだらもう分からないわよ。ジムの彼女なんでしょ、この人」
「……まあね」
フェイスとマシュの話を余所に、エブリンはシェーンに近づいた。
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