7人が本棚に入れています
本棚に追加
「エブリン」
彼女の行動に気づいたマシュは、エブリンを引き止める。
「シェーンは戻らないよ。もう戻らない」
マシュの言葉を飲み込み、エブリンはシェーンを見つめた。愛すべき友人が、今では歯を鳴らし牙を見せ血飛沫を吐き出しながら、イスに縛られていなければすぐにでも飛びかからんばかりに体を揺する異形の生き物に変わり果てている。彼女の腕には、そう変化させた大きな噛み痕が痛々しく残っていた。
滲んだ血液はすでに固まっていたが、食い千切られたクレバスは乳白色の骨を僅かに露わにしていた。
「いつから?」
「今朝だよ。大群に囲まれたんだ」
フェイスはマシュの言葉に顔をしかめた。
「傷の深さに比例するのね」
「えっ、何が」
「感染の速さ。傷の深さとか大きさに比例して、速いの。感染するのが」
マシュはエブリンの肩越しにシェーンを見た。今朝まで自分達と変わらぬ『人間』だった彼女は、昼には容姿を変え、深夜である今では、人の見る影もない。
人を変異させるこれが何なのか、現時点で誰も答えを出せずにいた。ただ黙って嵐が過ぎ去るのを待つかのように、感染した者を隔離、もしくは始末し、生き残った人間は、次にその対象になるのが自分になるやも知れないのを、震えて堪えていた。
最初のコメントを投稿しよう!