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皇輝がゲームを開始してから、12時間が経過した頃か。
12月上旬。 東京‐下北沢。
井の頭線の下北沢駅から徒歩20分ぐらい。 交差点角のアパートの一室にて。
散らかった部屋の中、ビッグに成る夢を抱えた青年が目を覚ました。
(・・あさ)
使い古した‘せんべい布団’から身を起こしたのは、獅籐。 築40年経つボロアパートの、陽当たりが悪い3階に住む彼は、薄暗く酷く鈍い明かりによって目覚めた。
(うう゛っ、寒い…)
ランニングとトレーナーの下を穿いただけの獅籐。 それは12月ともなれば、寒いのは当然だ。 のそのそと起きた彼は、身を丸めてトイレへと歩いた。
然し、このアパート。 トイレ以外に、台所や浴室は見当たらない。 獅籐が居間とする部屋前は、玄関前で在り。 通路で在り。 その畳二枚を縦に並べた細長い間の左側がトイレ、右側は玄関と成っている。
このアパートは、洋間と和室の二間が在る間取りだが。 トイレ以外は、全て共同と成る。 家賃9万円だが、洋間がかなりしっかりした防音の部屋なので。 V系ミュージシャンの彼には、非常に都合が良いアパートだった。
さて、弱い雨音を聞きながらトイレに入った獅籐は、出た後に。 ‘洗面所兼流し’と成る場所で、水道水をコップで飲み干し。
(ふぅ~。 いい加減に、タカさんからメールぐらい来てないかな)
と、‘居間兼寝室’に戻った。
寒いからエアコンを付けて、スマホをチェックする獅籐だが。
(うわ~、まだ来てないよ)
と、ガックリ項垂れる。
今、朝の9時半過ぎ。 同じ職場の同僚でもある友人から、全く応答の無い事に。
“ゲーム好きにも、困ったモノだ”
と、獅籐は呆れてしまった。
(噂の新作は、そんなに面白いのか…。 前評判は、期待を外さなかったらしいね)
前日、獅籐の友人となる皇輝は、最先端ゲーム機の新作ゲームを買った。
【迷路‐ラビリンス‐】
と、云うゲームである。
このゲームは、開発初期から映画やアニメの専門制作会社が関わり。 然も、何等かの‘タブー’を破って発売したとかで。 世間からの注目は、
“人気絶好調のアイドルが、恋愛発覚した”
そんなスキャンダルと同じぐらいの勢いが、巷の噂や取り上げ方に有った。
だが、獅籐は知らなかった。 ゲームの中に入った皇輝が、命懸けのゲームを強いられていた事を…。
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