第二章 騎士から死神へ

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 そもそも、騎士様というのは世間が勝手にソルトのことを呼び始めた名前で、死神というのもまた同様であった。ソルトからしてみれば、勝手にちやほやしてきた連中が今度は突き放してきたのだ。その“連中”とやらに何か施しをする義理がないことは、誰から見てもごく当たり前の考え方だ。 だが、死神といわれる所以となった殺人行為のことを知れば、やはりソルトのことを死神と呼ぶ人はいる。 殺人などとかわいいものではない、彼がしたのは大量の殺人行為だった。それこそ、下手をしたら人間がこの国からいなくなるほどの、大量の殺人。 「……ご主人様ぁ。陛下から招集の命令がきてますよお。行きます?」 物思いに耽るソルトにリアが邪魔をしてしまわぬよう、恐る恐る声をかける。先ほどの手紙の山の中に紛れていたそれをリアが見つけて持ってきたようだった。 ソルトは視線だけを彼女の手にある一枚の紙切れにやり、また天井に戻した。 「行くしかないだろう。いつだ」 「明後日のぉ、午後十二時ですぅ。お昼ですねぇ」 「分かった。冷蔵庫のワクチンを今日冷凍庫に移しておけ」 「はぁい!」 陛下、つまりはソルトたちが住む城がある国のリーダーであるが、彼のもとへ行く際は必ず持参しなければならないものがあった。それはソルトが作り、処方するワクチンである。  ソルトの罪はウイルスを作ったことだった。感染病の元となるウイルスを蔓延させてしまった彼は責任を取らされ、今、感染病の発症・症状を抑えるワクチンを作っている。 定期的にワクチンを献上することで、ソルトがきちんと償いをしていることを確認しているのだった。 「こんなんで償えるなら、いくらでも殺すけどな」 ソルトが不穏な一言をぼやく。
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