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(あれからどれくらい経っただろう)
夜明け前に森を出て、逃げるように街道を馬で駆けた。
焼け落ちた故郷を目にするのが恐ろしくて、振り返ることもできず、ただただ硬く目を閉じ続けた。休むことなく馬を走らせるヤンの背中を、縋るように抱きしめながら。
気がつけばすっかり陽は昇り、辺りは明るくなっていた。街道の先を行くヤンの父親も徐々に馬の速度を落とし、いつしか二頭の馬は並足で街道を進んでいた。
「見えてきたよ、ほら」
気遣うように優しく声をかけられ、レナは顔を上げた。ヤンの指差す向こうに、真っ白な外壁と規則正しく並ぶ木々が見える。
これが『街』なのだ、とレナは思った。
レナが生まれ育った村から外へ出たのは、これが初めてだった。色々な街に出掛けてみたいと考えたことは何度もあったが、こんなかたちでその願いが叶うなんて、運命とはなんて残酷なものなのだろう。
生まれて初めて見る『街』の外壁に目を向けたまま、レナは首に懸けた闇色のペンダントを握りしめた。
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