俺は、あなたのことが…

3/29
前へ
/29ページ
次へ
「…白井はさ、その……好きなやつとか…いる…?」 緊張した面持ちで問われたのは、全く持って俺の予想の範疇を超えていた。 好きな…人? 『今も…信一郎のこと、好きだよ』 『お、俺……新のこと……好きなんだ。友達としてじゃなくて』 俺が好きなのは、 「ぁ……。い、いないです」 誰なのか。昨日好きって言ってくれたのは嬉しかったしドキドキしたけど、今目の前にいる人物にもドキドキしてる。 「……そっ、か」 俺の歯切れのない返答に違和感を感じているのは明らかだった。でも、そのことで特に追及することもなくただ頷いて、一言そう言っただけだった。 そんな時、頭痛が俺を襲った。 「──っ!」 あまりの痛さに、俺は頭を押さえた。 「大丈夫か?!」 先輩は立ち上がってこちらへ来て、顔を近付けた。 「……だい、じょう…ぶ」 です、そう続けるはずだったのに、痛さがそれを邪魔した。 「…保健室、行ってきますね」 「無理すんな。俺が連れてく」 無理して笑って一人で行こうとしたところで、先輩に引き留められた。 意識が朦朧としていく中で、倒れるこむ形で、先輩の背中に身体を委ねた。柔らかな温かさ、逞しい背中、そして仄かに香る先輩の匂いが俺の感覚器官を刺激した。 「ちゃんと掴まってろ」 その言葉を最後に、俺は現実を手放した。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加