八鏡国

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水の国 青空と海の青が溶け込む。 水の国の最端にあるオノゴロにてイザナミは母王に変わりこの海一帯の長に祭祀の段取りを整え終わった。 夜の宴まで時間があるので暇潰しに海岸沿いを歩いた。 裸足で白い砂浜を歩く。たまに波が足をさらう。 しばらく歩いただろうか、砂浜に男がうつ伏せに倒れていた。海から流れてきたのだろうか、背中にヒトデが足に昆布がついている。 「やだ、死体?」 恐る恐るイザナミは近づいた。 男から息が洩れる音を聞いて安堵する。イザナミは背中に貼りついていたものを海に投げて、男を抱き起こした。 「ちょっと大丈夫?」 イザナミは男の顔を見て時が止まった。整った端正な顔、長い睫毛、高い鼻梁。 「うぅ、」 男から声が洩れ薄く目を開けた。 澄んだ優しい瞳を見た瞬間、イザナミは一目で恋に落ちた。 「しっかりなさって!」 男はイザナミを見た。 そして柔らかく微笑んだ。 「なんて、美しい…。」 イザナミの顔に火がつく。 「い、いいから、立てますか?宮で手当をいたしましょう。」 男は頷いて、イザナミの手を借りて立ち上がった。 イザナミが肩を貸し、よろめきながらも足を進めた。 「ここは?どこ、なんで、すか?」 途切れ途切れに男は訊ねた。 「無理して喋らなくてもよいわ。ここはオノゴロよ。」 男が首を傾げた。本当に漂流したんじゃないだろうか 「水の国のオノゴロ」 男は、ありがとうと微笑んだ。 イザナミの心臓はバクバクしすぎる。 顔が見たいのにまともに見れないでいる。 宮が見えてきた。何事かに気づいた数人がこちらに駆けてくる。 「私の名前はイザナミよ。あなたは?」 どぎまぎしながら訊ねた。 イザナミの耳に柔らかい声がかかる。 「イザナギ。」 「あら、私達の名前は似てるのね。」 イザナキは微笑んで頷いた。 イザナギは宮の男達に担がれて行った。長のオオワダツミに取り成して治療をさせてもらえることになったのだ。
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