八鏡国

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草の国 この国は食物が豊富である。道に生えている木には全てに実がなっている。 足元に生えている草も野菜の苗だったりする。この国に食べられぬ物なぞ植えていない!というのが草の国の特長だろうか。ので、どこを見渡しても緑だ。 そんな中、若者達が道を進む。 「いつ来てもこの国は美味しそうな香りがするなぁ。」 土の国の長の子息が長兄、ヤソが鼻をひくつかせた。 「長兄、今日こそは姫のお姿を見られるとよいな!」 そう申したのは、九兄のヤコ。 十人の兄弟が目指すは草の国一の美姫と言われる稲波の姫の宮だ。 その、兄達に遅れて背の高い美丈夫が大きな袋を担いで歩く。 荷物が重いのかよろめく。 「おーい、ナムチ!早くしろよ!」 十人の兄弟達は、皆揃ってぼんやりとした顔立ちであるが、一番下の異母兄弟のナムチは整った顔立ちをしている。 ナムチは息を吐きながら兄達に追い付こうと歩を速めた。 兄達が通いに通いつめる美姫はどんな方なのだろうと、興味を抱きお供を願ったら、姫に奉納する荷物持ちとされた。 ナムチの母は妾なので、兄と比べると待遇は悪い。それを不満には思ってはいないが、兄達は異母の弟を従人としか思っていないようだ。 背中の袋が疲弊する度に重さを増してくる。 視線を上げてみると遠くに兄達の姿が見える。 足がもつれて倒れこんだ。追い討ちのように背中の袋がのし掛かってくる。 「はぁはぁ、はっ……」 息を整えて立ち上がると兄達の姿は見えなくなっていた。 ナムチは大きな袋をかるいあげて、再び歩きだした。
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