八鏡国

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ヤソ達は、後ろのナムチに気がつきもせずに前へと進んだ。 拓けた場所に出た。横は青い海が広がっている。 白い砂浜に女が泣いていた。 顔は大きく腫れ上がり目元は青紫色にくすみ着物ははだけ、袖と足裾の布が破れていた。 「一体どうしたんだ?」 ヤソが女に声をかけた。 女は泣き続けた。 「すごい傷だ。痛かろう。」 「よし、良いことを教えてやろう。」 「まずは潮水を浴びて消毒をするんだ」 「次は風に当たって傷を渇かすんだ」 「そうしたらよくなる。」 女は頷いた。 「ありがとうございます」 「うむ。では我らは先に急ぐからの」 「ではな」 男達は去って行った。 女は言う通りに、海に浸かった。 電撃がはしるかのようにズキズキと傷が染みる。 「痛い痛い痛い痛い」 泣きながら砂浜に立ち風を浴びたら、さらに傷がヒリヒリと痛む。 「痛い痛い痛い痛い痛い。」 ああ、また男に騙されたのだ。悔しくて悔しくてシロは泣いた。痛いのと悔しいのでいっぱいだった。 「どうして泣いてる?」 男の声にシロは振り返った。 ナムチは顔をしかめるでもなく、心配そうに聞いた。 「美人が台無しだ。あ、よいものがある。」 ナムチは大きな袋を砂浜に置いて中身を探し始めた。 取り出したのは水袋とガマの穂だった。ガマの穂は薬になるので見つけた時に取っておいたのだ。 ナムチは水袋をシロに渡した。 「これで、傷を洗うんだ。」 シロはこくりと頷いて水を傷にかけた。ヒリヒリとした痛みがやわらいだ。 「次はガマの穂を傷につけて休めば大丈夫だよ。」 「ありがとうございます。」 「一体、美人さんをこんなにしたのは誰だい?」 「…。」 「あ、言いたくなかったら別に言わなくてもいいんだよ。」 「私は、国に帰りたくてワニ氏を騙したの。」 ワニ氏は、風の民だが海の一族と化している。船で商いをしている一族だ。 「嘘がばれて身ぐるみ剥がされて、袋叩きにされたの。」 「災難な目にあったね。国はどこ?」 「風の国よ。私は、宇佐の伎なの。」 「傷が治ったら、君の舞が見てみたいな」 ナムチはにっこりと笑った。 「ああ、ところで稲波の宮はどこにあるか教えてくれないか?兄達とはぐれてしまってね。」 「ヤガミ姫様の所?なら、お礼に案内するわ。私は、そこでお世話になってるの。」 ぴょんとシロがはねた。 「ヤガミ姫様は、きっと貴方を気に入るわ。」
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