八鏡国

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草の国 稲波の宮にて、ナムチとヤガミ姫は結婚の約束を取り交わした。 「一度本国に戻り此度の婚儀を父と母に報告して参ります。」 ヤガミ姫はナムチの袖をそっと掴んだ。 「早いお戻りをお待ちしております。」 ナムチはヤガミ姫が愛しく思い細いその体を抱きしめた。 一方ヤソ達は、怒りが収まらずにナムチ殺害を企てた。 「ヤタとヤナ達は先に山に上がってだな…。」 「おぅ。そいつはいい。」 「ナムチの野郎に思いしらせてやる。」 ナムチはヤガミ姫の宮を後にし、土の国へと戻る途中、山の麓にヤソ達がいた。 「兄上!」 「おうナムチ、ヤガミ姫と結婚出来てよかったな」 ヤソは、笑顔でナムチを迎えた。 「喜んでくださるんですか?」 「勿論、勿論。」 「それでな、お前の祝いをこめて赤猪を捕まえようとしているのだ。」 「中々うまく捕らえられたいから、作戦を変えることにしたんだ」 「俺達が追い下ろすからお前は赤猪を抱き止めるんだ」 「祝いの品をお前が捕るほうが縁起がよい。」 兄達の心遣いに感激しナムチは請け負った。 「お任せください。」 「任せたぞ!」 「絶対受けとめろよ!」 ヤソ達は、山へと上がって行った。 にたりと笑いながら ヤタ達が用意したのは真っ赤に焼けた猪に似た大石だ。 「くくく、よく焼けてる。」 「こいつはいい。」 ヤソ達は、げらげら笑いながらナムチがいる場所へと転がした。 そんな事とは露知らずにナムチは赤猪を今か今かと待ち受けていた。 ナムチの眼前に大きな赤猪が勢いよくやってきた。 「よし来い!」 ナムチは両手を大きく広げ赤猪を捕らえた。 ジュワッ 灼熱の熱がナムチの全身を覆った。 「うわああああああぁぁぁぁ」 ナムチの断末魔を聞き終えるとヤソ達は、ほくそ笑んだ。 「死んだな、ありゃ」 「ああ、愉快愉快。」 山の上から焼け爛れたナムチを一瞥してヤソ達は、土の国へと帰って行った。
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