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岩の国
岩壁をくりぬいた部屋をあてがわれたが、部屋一面の紺碧にアキツは目を奪われた。
瑠璃の鮮やかな青だらけだ。
「すごーい。」
「さすが岩の国ですね。」
シギが頷く。
アキツはスベスベとした岩壁に手を触れた。ひんやりと気持ちよい。
「アキツ姫様。少しお休みになられますか?」
「ううん。別に平気よ。」
この部屋は広いが調度品は何もなく、テーブルと床台があるだけだ。
シギはテーブルの上に布で包まれた荷物を置いた。
「せっかく火の国に帰国したというのに、一日しか居れませんでしたね。」
アキツは肩を竦めた。
「仕方ないわ。姉王様の勅命だもの。何かお考えがあるのよ。」
カグチは床台に深く腰を落とした。
こちらの部屋は一変して漆黒だ。
アキツの部屋とは違い、紅い織り模様の布が岩壁に掛かっている。
「黒曜石かぁ」
カグチの従人、オホトマは鼻を鳴らした。オホトマは長身でガタイもよい。左眉から左の頬にかけて鳥の羽根のような朱の入れ墨が彫られている。充分目立つはずなのに、この男は気配を隠すのがうまい。気がついたら背後にいることはざらだ。
「あちらにしては、よい措置だとは思うがな。」
「それにしても、急に帰国したかとおもったら、お次は八門とは。」
「タケハヤ殿は何と?」
カグチは荷物どころか従人も置いて帰国したのだ。
「カグチ殿は気まぐれだからな。と」
「ふぅん?」
「タケハヤ皇子は、よくわかりません。」
カグチは、目を瞬いた。
「お前がそう言うとは珍しい。」
面白がるように言って、オホトマを見た。
「俺はカグチ様も、よくわかりませんよ。何をお考えなのか。」
「そうか。」
カグチは口の端を吊り上げた。
「ご命令を。」
オホトマはカグチの前に膝まついた。
元々、カグチは従人という者を持たないでいた。カグチの力が強すぎて必要なかったとも言えるが。
そんな中、酔狂にも従人に志願してきたのが、オホトマだ。いつのまにか当たり前のように傍らにいた。
カグチは目を伏せて声を発した。
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