5 プロの意地を感じる、干し柿のパウンドケーキ

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「お帰り、姉ちゃん」  部屋に帰るなり、美里がそう言って声をかけてくる。  それに、今の自分は一人ではないんだ、と実感させられた。 「……ただいま」  一拍遅れて返事をした明里に、美里は怪訝そうな表情になった。 「どうしたの?」 「あ、久々だったから。このやり取り」  そんな美里に手を振りながら、明里は靴を脱いだ。  一人暮らしは、もう二十年近くもやっている。  途中実家に戻って暮らしたこともあったけれど、臨時の教員をしていた時も、完全に辞めて今の転職した時も、ずっと一人で暮らしてきた。  その間、「ただいま」という言葉に、「お帰り」と返す相手は、いなかった。恋人がいる時期もあったが、同棲したことはないので、本当に久々のやり取りだった。 「私も、久々だよ」  でも。思ってもいないことを美里は言った。
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