154人が本棚に入れています
本棚に追加
/427ページ
不味い。
それを口にした瞬間、明里(あかり)はそう思った。
あきらかに、茹で過ぎである。
よくもこのような代物を出してきたな、と思ってちらっと横目で食堂のカウンターを見る。
ちょうど料理長が、誰かの注文した食事を出しているところだった。
「料理長は料理が上手い」と言うのが、巷の評判だった。
明里も彼が作るカレーを注文する時があるが、確かに美味かった。
それなのに、このうどん。
「どうしたの? 真中(まなか)さん」
そんな明里の様子を見て、向かい側に座った安部(あべ)さんが声をかけてきた。
安部さんは、明里と一緒に同じ学童で働いているから、この食堂にはいつも一緒に来る。
「うどん。ちょっと茹で過ぎていませんか?」
安部さんも同じうどんを食べていたので、声を小さめにして言ってみた。
「そう?私には、ちょうどいいけど」
今年五十代後半を突入する安部さんは、その年代と思えない黒髪を揺らし、首を傾げる。
最初のコメントを投稿しよう!