1 その戦いは、うどんから始まった。

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 不味い。  それを口にした瞬間、明里(あかり)はそう思った。  あきらかに、茹で過ぎである。  よくもこのような代物を出してきたな、と思ってちらっと横目で食堂のカウンターを見る。  ちょうど料理長が、誰かの注文した食事を出しているところだった。  「料理長は料理が上手い」と言うのが、巷の評判だった。  明里も彼が作るカレーを注文する時があるが、確かに美味かった。  それなのに、このうどん。 「どうしたの? 真中(まなか)さん」 そんな明里の様子を見て、向かい側に座った安部(あべ)さんが声をかけてきた。  安部さんは、明里と一緒に同じ学童で働いているから、この食堂にはいつも一緒に来る。 「うどん。ちょっと茹で過ぎていませんか?」  安部さんも同じうどんを食べていたので、声を小さめにして言ってみた。 「そう?私には、ちょうどいいけど」  今年五十代後半を突入する安部さんは、その年代と思えない黒髪を揺らし、首を傾げる。
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