第一巻 卒業まであと半年

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【由梨(ゆり)と美咲(みさき)@横浜元町】 「ねぇ、美咲(みさき)。卒業式に好きな人のボタンをもらうって、ちょっと古くない?」 「平成時代的なレトロな感じがいいんじゃないの」 「どーゆーこと?」 「まだ学ラン制服が多くの学校で残ってた平成時代に流行った、恋する乙女のための一大イベントじゃない。もともとはお爺ちゃんお婆ちゃんの時代、昭和時代から始まったらしいけど」 「学ランじゃない制服の場合は、どのボタンをもらうのよ」 「ブレザーのボタンに決まってるでしょ」 「前に2つ、袖に2つずつだから、合計6つしかないわね。健太くんみたいな人気者だったら争奪戦になるってこと?」 「そうね。だから今ではブレザーのボタンだけじゃなく、ワイシャツのボタンも対象なんだって」 「ワイシャツ!?」 「由梨っ!びっくりした。大きな声ださないでよ」 「だってワイシャツって、あんなに小さなボタンもらってうれしい?」 「うれしいに決まってるじゃない」 「なんで?ブレザーのメタルボタンなら大きいし、胸のポケットに入れておけば、いつも一緒に居るみたいでキュンキュンしそうだけど・・・。ワイシャツのボタンには学校の校章も付いてないし、同じボタンが日本に何千万とあるわけでしょ?」 「それはそうだけど。ちょっと考えてみて。毎日朝と晩にワイシャツを着たり脱いだりする度に健太君が指で触るボタンなのよ」 「ブレザーのボタンも、ワイシャツのボタンも触られる回数はきっと同じはずよ」 「そうね。でもね・・・。健太君、ワイシャツの下に何も着てないでしょ。なので、ブレザーのボタンよりも肌に近いボタンってことになるの」 「美咲が言いたいことは分かったけど・・・。私だったらワイシャツそのものだったら欲しいかもしれないけど、ボタン一つってのはねぇ」 「ワイシャツそのものかぁ。その方が断然いいわね。健太君の匂いとか残ってそうだし。夜にパジャマとして使ってムラムラしたり」 「美咲。横浜元町のベンチでそういう妄想はやめてちょうだい」 「はいはい」 「健太君に交渉してみたら?」 「ワイシャツ下さい、って?」 「うん」 「そうね。明日学校で、ダメモトで聞いてみっか」
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