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1 ヒーローはじめました
小さな村だった。
広大な平原の中、ポツンと置かれたようにある、なんの変哲もない村。
気候も良く、朝、外に出れば近所のおばさんが笑顔で挨拶したり、酔っ払ったおっさんが倒れてたり、猫が我が物顔で歩いているような、そんな村だ。
そのなかの孤児院で、俺は教師という仕事についていた。
教師、といっても、教える分野は多岐に渡る。
歴史や文化。言葉や文字。数学に科学。魔力や魔物の話。
カツカツと黒板に文字を刻む音が、リズムをとっているようにも聞こえる。
カッ、と最後の文字を書き終えた上で、俺は話し始める。
「て、ことで、今日は歴史についてだ」
言い終わるが早いか、生徒たちの「えーっ」という声が聞こえた。予想通りだ。
世界には、多くの国がある。ここもまた、その一つだ。
紛争の絶えない国。繁栄を続ける国。制圧されて消えてしまった国。戦争を拒む国。
この国にも、少なからず紛争は存在した。
しかし、今となっては平和な国となり、隣国との戦争も、この数百年間、起こっていないという。
ある時、誰かから聞いた話だ、
「この世界は自由で、そんな世界に生きる俺たちは幸福だ」と。
何をするのも、しないのも自由。全ては自分が決めることだと。
(・・・とは言ってもね)
働かざる者食うべからず。生きる為には食っていかないと行けないし、そのためには仕事をこなさなければならない。
15歳を過ぎて、働くことを余儀なくされた俺にとっても、それは同じだった。
夢を追うのもいいだろう。ただ、そうそう挫折したりしていられない。人生に保険はないのだ。
「・・・ぃ。兄ちゃん先生、どうしたの?」
少年の声にハッとする。どうやら物思いにふけっていたらしい。
「ああ、悪い・・・」
俺が謝ると、少年はむっとした表情を浮かべた。
「しっかりしてよ。俺たちはベンガクにハゲんでるんだからね!」
どこで知ったのか、本当に理解しているのか怪しい言葉を放ったあと、少年はけしからん、という気持ちを体現するように腕を組んだ。
「ソラ、そんなこと言って、本当は早く終わらせたいだけでしょ」
ソラ、と呼ばれた少年の隣の席から、女の子が冷たい視線を浴びせていた。
「なっ・・・!? そ、そんなわけねーじゃん!」
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