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「はー、疲れた」
教師の仕事を終えて、孤児院を出たのは夕方前だった。
子供たちの相手はやりがいがあるが、やはりあの元気についていくのは精神的にも疲労を感じる。一度皆がカラカラと笑いだしてからは、まとめるのが一苦労だった。
外に出るとまだ日は高く、しばらく散歩をしても暗くなる前には十分に帰りつける時間だった。井戸端会議をする奥様方。物資を搬送するおっさんの姿が目に写った。
(さて、どうするか・・・)
悩んでいると、視線の先に見知った姿が目にはいった。
「あ、ユエル君だ~! こんにちはっ!」
緑色の長い髪。胸のブローチが特徴的な、青い服を身に包んだ女の子が、俺に駆け足で近づき、元気に跳び跳ねるように喜ぶ。
同じ孤児院で育った女の子。名前はエトリという。
「目の前ではしゃぐな」
「今、終わったの?」
俺は冷たくあしらうが、そんなことは全く気にしない様子で質問してくる。
(聞いてねぇ・・・)
呆れるが、こいつの言動にいちいち気をとられていると疲れる。
「ああ、たった今、終わった。いっとくが俺は今から帰って疲れを癒すんで、そのつもりで」
勿論、さっきまで何をしようか考えていたなど言わない。
「やっぱり! 私、今から子供たち遊ぶ約束してるの! ユエル君も一緒に行こ!」
(聞いてねぇ・・・)
目の前の生命体との意思の疎通は不可能なのではないかと、心が折れそうになる。
「俺は、今から、家に帰って、ゆっくり休むんだ」
分かりやすいように言葉を区切りながら、力強く説明繰り返すと、その女の子はくりっとした瞳を俺に向け、考えたような表情を見せる。
「そうなの?」
「そうなの」
通じた。やれば出来るんだ。
「そっか。じゃあ、また今度お願いね」
女の子は少しだけ残念そうにしたが、言い終わる頃には俺に笑顔を向けていた。
「気が向いたらな」
(多分、そんな日は来ないだろうけどな)
彼女は悪い性格ではないが、元気がありすぎて俺のような凡人ではついていけない。というか疲れる。なるべく巻き込まれるのはごめんだった。
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