1人が本棚に入れています
本棚に追加
「うん、それじゃあね」
「ああ、またな」
(よし、今日は上手くやり過ごせたな)
手を振って歩き出すエトリを見送り、振り返って一歩を踏み出そうとした、その時だった。
「あ、忘れてた!」
孤児院向かっていたエトリが、ピタリと歩みを止め、振り返る。もう嫌な予感しかしない。
「・・・ん?」
一応、聞き返す。よし、今からジョギングだ! と無視しても良かったかもしれない。
「そういえば、さっきダレちゃんから、ユエル君の仕事が終わったら呼んでくれって・・・」
「・・・」
「・・・頼まれたん、だったよね?」
知るか、と突っ込みたくなるが、俺は素知らぬ顔で「気のせいだろ」言い放つ。
「あれ、そうかな?」
「ああ、きっと幻覚か何かだ」
「そうかなぁ」
首をかしげ、エトリはまた孤児院へ向かって歩き出した。
それを見るや否や、俺も踵を返し、早足に歩き出す。
(聞いてない。俺はなにも聞いてない)
「あ、いつものところで待ってるって!」
振り返ると、もう少しで姿が見えなくなる、というところでエトリ振り返り、笑顔手を振っていた。
(チクショウ・・・)
俺の平穏な一日が終わりを告げた。
最初のコメントを投稿しよう!