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月の光りさえも溶け込む。そんな深く澄んだ暗闇の中、闇に紛れ赤色の光りが二つ、異様な輝きを放っていた──
「甘い香りが漂うと思ったら…ふ、乙女に成り立てか……丁度いい…何者かに穢される前に俺の花嫁にしてやろう──」
暗がりに紛れ、憂いを漂わせた赤い瞳を光らせると妖しい笑みを浮かべる。闇に浮き彫りし白い肌、そして漆黒の髪。
均整の取れたスタイルと、美青年と呼ぶにふさわしいその容貌は、黒い大きなマントに包まれ宙に浮いていた。
田舎町の富豪、アルフォード家に住み込みで働く少女、ルナ。彼女はたった今、初潮が始まったことに気づかず深い眠りについていたのだ。
その男は邸の狭い屋根裏部屋で寝息を立てる少女に音もなく近寄る。そして、部屋いっぱいに広がる濃厚な甘い血の香りに胸を高鳴らせていた──
男の名はグレイ。魔物の中でも高階級の魔物、吸血鬼。その中でも絶大な魔力をもつ吸血鬼の長であった──
麗しく美しい見た目の為に自ら狩らずとも餌の方から近づいてくる。長く生きた分だけ力も知識も十分。そして彼ら吸血鬼は魔物にしては珍しく富をも所有していた。
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