第1章

16/21
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
すいと立ち上がった朽葉が、 秋月の手から証文を抜いた。 「……また来ますよ。 良く考えておいて下さい」 釣りは要りませんとカウンターに一万円札を置いて、 男が出て行った。 覚えてろよ!とお決まりのセリフを残して、 沼田がガシャンと音高く戸を閉めた。 「秋月さん……いったい?」 なにがどうなっているんです、 と夏目が秋月を振り向く。 「……つりを」 俯いて唇を噛んだ秋月の低い声。 「はい?」 「つりを渡して来い!」 「あっ―――はい!」 今までに聞いた事のない声で怒鳴りつけられて。 夏目が慌ててレジから釣り銭を出す。 引き戸を開けて路地に出れば、 雨の上がった曇り空の下に去っていく後姿が見えた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!