1人が本棚に入れています
本棚に追加
「それに、こうやって信頼を勝ち得てから裏切るというのも、オツでしょう?」
なんの信頼を勝ち得て、何を裏切るとは絶対に言わない。
ここは大事なポイントだ。
兄王子の様子を窺うと、明らかに上機嫌になった。
どうやら納得したらしい。
「お主は酷いやつだ」
嫌みったらしい歪んだ笑みが、よくお似合いで。
そんな言葉が出そうになるが、しっかりと飲み込む。
早く主のところに行かねば、そろそろ転びかねない。
「くれぐれも、妹にはバレぬようにな」
そう言って兄王子は立ち去る。
俺は肩をすくめて、笑いを隠す。
立ち去った兄王子が人混みに紛れて見えなくなる。
その上で『ペアではないが、似た柄の物』にした伊達眼鏡をはずして眺める。
「ばれるも何も、最初から主は気づいてましたよ」
引き合わされた、あの時から。
手入れを忘れた髪と肌のまま、姫は現われた。
側に付いていた者は軒並みいなくなったと、王子から聞いていた。
王子が俺を紹介すると、彼女は丸い眼鏡がずり落ちるほど驚いた。
そして、妹姫は「やっと、か」と小さく呟いたのだ。
悟りきった瞳をレンズで隠して、微笑を称えた妹姫は、あっけないほど暗殺者の俺を受け入れた。
いつかは兄に殺されると、知っていた。
最初のコメントを投稿しよう!