王子の予防接種

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王子の予防接種

「月影さん……もうちょっとアクセル踏んでもらえる?ここ制限速度40だから」 「はっ、はい!」 自動車学校に通い始めた私は、初の路上運転で慎重になりすぎ原付に抜かされる始末だ。 学校は田舎にあるが、走るコースは住宅街や細い道が多く、カーブもあってハンドルを切るのが間に合っていない不安にも駆られる。 「教習所内はノビノビと走ってましたよね?そんなにリキまなくても大丈夫、いざとなればブレーキ踏んであげるから」 「……はい」 機械操作は苦手なのに『家族とドライブ』と目標も決められ、指折り数えて待たれているのでプレッシャーも大きい。 いつも執行の時はもの凄いスピードに目が慣れているのに、運転は全然違う神経を使う気がする。 道が両端から狭くなるような幻覚を起こしそうだし、ハンドルの握り具合もしっくりこない。 原因は気分的なモノだと分かっていて、教習所内のコースは普通に運転出来ていたし、路上に出るまでは順調だった。 「じゃあ、今日は時間がきましたので、又予約取って帰って下さい」 ドッと疲れて受付で予約を取るのだが、イザリ屋の仕事は夜なので、昼間しか来れないので目一杯入れておいた。 「お疲れ様でした~」 受付のオバちゃんに見送られ送迎バスの時間を見るとまだ余裕がある。 誰も送ってくれないし、かといってバス代を使うのも勿体ないので、貧乏根性丸出しで自動車学校の送迎バスを利用していた。 おまけに社宅のマンションの下のコンビニまで迎えに来てくれるので実は便利でもある。 そして唯一の楽しみは学校の近くにあるパスタ屋さんで、ボロネーゼが好みな味だし粉チーズはかけ放題。 こじんまりとした佇まいでそんなに混んでないし、パスタ大好きで人混みが苦手な私にはいい励みになっていた。 「こんな店が近くにあるって知ってたら、もっと早く学校に通ってたのに」 それでも毎回は贅沢だと四回に一度に抑え、収入はかなり上がったが、そこはしっかりと節約もしていた。 「はい、おまたせしました」 店のオバサンはポッチャリしていて、イタリアのマンマ……は見た事がないが勝手にそう思っている。 何口か食べてからチーズに手を伸ばすと、お皿を持った男性が目の前に立っていた。
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